グランドホテル方式
グランドホテル方式(グランドホテルほうしき)は、映画や小説、演劇における表現技法のことで、「ホテルのような一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって、そこから物語が展開する」という方式のことである[1]。映画『グランド・ホテル』によって効果的に使用されたため、この名が付いているが、その原型はバルザックの『ゴリオ爺さん』の下宿屋・ヴォケール館の食堂にすでに看取されている[1]。群集劇(ぐんしゅうげき)[2]、群像劇(ぐんぞうげき)、アンサンブル・プレイとも呼ばれる。
アメリカ合衆国など英語圏では、アンサンブル・キャスト(ensemble cast)と呼ばれる。主人公を1人や2人に限定せず、数人のキャラクターのストーリーラインを並行して進行させたり、エピソード毎に異なるキャラクターに焦点を当てるという手法である。この方式には、レギュラー出演者が急に降板となった場合でも番組が継続できるという利点がある。
目次
1 具体例
2 類似する形式
3 主な作品
3.1 映画
3.2 連続テレビドラマ
3.3 テレフィーチャー
3.4 アニメ
3.5 ゲーム
3.6 漫画
3.7 小説
4 関連項目
5 脚注
具体例
例えばこの手法の名前にもなっている映画『グランド・ホテル』では、とあるグランドホテルのそれぞれの宿泊客の人生が描かれている。
落ち目のバレリーナや自らを「男爵」と名乗るコソ泥、余命いくばくもない工夫、その工夫の働く会社の社長と、速記秘書、そして妻の出産報告を待っているフロント係、といった具合である。それらが出会いと別れを繰り返していき、一つの物語を構築していくのである。
映画やテレビドラマでは、カットバックは自由に行われ、複数の人物に自由に焦点を動かすことができる。これは単に三人称描写というだけであり、これだけではグランドホテル形式とは呼ばない。
類似する形式
- 密室劇
- 「グランドホテル方式」では、ある一定の場所(空間)にやって来た者たちが、それぞれ複数の場所(部屋など)で物語が展開する様相になるが、それを一つの空間に「限定」したものが「密室劇」であり、映画『十二人の怒れる男』などで有名である。
- 駅馬車方式
- 密室化した乗り物に乗り合わせた人物間の人間関係と、乗り物そのものに襲いかかる障害を同時並行で描く物語のことを、映画『駅馬車』にちなんで、「駅馬車方式」と呼ぶこともある。この駅馬車を現代の乗り物に置換して映画化したのが『大空港』や『ポセイドン・アドベンチャー』といえる。
- メリーゴーラウンド方式
- ある関わり合いを持った複数の同格の登場人物が、それぞれあまり絡み合うことなく、交互に並行的にストーリーが進んでいく構成を、サマセット・モームの『メリ・ゴオ・ラウンド』の構成にちなんで、「メリーゴーラウンド方式」と呼ぶこともある[3][4]。三島由紀夫の『鏡子の家』や、深沢七郎の『東京のプリンスたち』の構成に看取される[3][4]。
主な作品
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映画
グランド・ホテル(1932年 / アメリカ)
七人の侍(1954年 / 日本)
血槍富士(1955年 / 日本)
幕末太陽傳(1957年 / 日本)
大空港(1970年 / アメリカ)
戦争と人間三部作(1970年 - 1973年 / 日本)
ポセイドン・アドベンチャー(1972年 / アメリカ)
タワーリング・インフェルノ(1974年 / アメリカ)
ナッシュビル(1975年 / アメリカ)
愛と哀しみのボレロ(1981年 / フランス)
ダイナー(1982年 / アメリカ)
アウトサイダー(1983年 / アメリカ)
コットンクラブ(1984年 / アメリカ)
フラットライナーズ(1990年 / アメリカ)
ザ・プレイヤー(1992年 / アメリカ)
から騒ぎ(1993年 / アメリカ・イギリス)
ショート・カッツ(1993年 / アメリカ)
パルプ・フィクション(1994年 / アメリカ)
ハードロック・ハイジャック(1994年 / アメリカ)
プレタポルテ(1994年 / アメリカ)
シャロウ・グレイブ(1995年 / イギリス)
インデペンデンス・デイ(1996年 / アメリカ)
愛のめぐりあい(1996年 / フランス、イタリア、ドイツ)
すべてをあなたに(1996年 / アメリカ)
マーズ・アタック!(1996年 / アメリカ)
ボルケーノ(1997年 / アメリカ)
フェイス/オフ(1997年 / アメリカ)
ディープ・インパクト(1998年 / アメリカ)
マイ・ハート、マイ・ラブ(1998年 / アメリカ)
200本のたばこ(1999年 / アメリカ)
マグノリア(1999年 / アメリカ)
ボーン・コレクター(1999年 / アメリカ)
彼女を見ればわかること(2000年 / アメリカ)
オーロラの彼方へ(2000年 / アメリカ)
スナッチ(2000年 / アメリカ)
トラフィック(2000年 / アメリカ)
ゴスフォード・パーク(2001年 / イギリス)
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001年 / アメリカ)
ブラックホーク・ダウン(2001年 / アメリカ)
ニューオーリンズ・トライアル(2003年 / アメリカ)
ラブ・アクチュアリー(2003年 / アメリカ・イギリス)
ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS(2003年 / 日本)
チェンジング・レーン(2004年 / アメリカ)
デイ・アフター・トゥモロー(2004年 / アメリカ)
クラッシュ(2004年 / アメリカ)
ネバー・ダイ・アローン(2004年 / アメリカ)
ハッカビーズ(2004年 / アメリカ)
ライフ・アクアティック(2004年 / アメリカ)
ロスト・ストーリー 〜現代の奇妙な物語〜(2005年 / アルゼンチン、オーストラリア、イギリス、アメリカ)
シン・シティシリーズ(2005年 - )
シリアナ(2005年 / アメリカ)
カオス(2005年 / カナダ・イギリス・アメリカ)
インサイド・マン(2006年 / アメリカ)
明日、君がいない(2006年 / オーストラリア)
THE 有頂天ホテル(2006年 / 日本)
ボビー(2006年 / アメリカ)
ディパーテッド(2006年 / アメリカ)
バベル(2006年 / アメリカ)
アンダーカヴァー(2007 / アメリカ)
アメリカン・ギャングスター(2007 / アメリカ)
バンテージ・ポイント(2008年 / アメリカ)
バーン・アフター・リーディング(2008年 / アメリカ)
クロッシング(2009年 / アメリカ)
フィッシュストーリー(2009年 / 日本)
イングロリアス・バスターズ(2009年 / アメリカ)
2012(2009年 / アメリカ)
インセプション(2010年 / アメリカ)
シーサイドモーテル(2010年 / 日本)
リセット(2010年 / アメリカ)
ニューイヤーズ・イブ(2011年 / アメリカ)
クラウド アトラス(2012年 / アメリカ)
桐島、部活やめるってよ(2012年 / 日本)
エイプリルフールズ(2015年 / 日本)
ギャラクシー街道(2015年 / 日本)
シン・ゴジラ (2016年 / 日本)
怒り(2016年 / 日本)
ダンケルク (2017年 / アメリカ・イギリス・フランス)
連続テレビドラマ
ラブ・ボート(1977年 - 1986年 / ABC)
ファンタジー・アイランド(1978年 - 1984年 / ABC)
ダラス(1978年 - 1991年 / CBS)
ヒルストリート・ブルース(1981年 - 1987年 / NBC)
ダイナスティ(1981年 - 1989年 / ABC)
L.A.ロー 七人の弁護士(1986年 - 1994年 / NBC)
ツイン・ピークス(1990年 - 1991年 / ABC)
ER緊急救命室 (1994年 - 2009年 / NBC)
24 -TWENTY FOUR-(2001 - 2010年 / FOX)
LOST(2004年 - 2010年 / ABC)
デスパレートな妻たち(2004年 - 2012年 / ABC)
グレイズ・アナトミー 恋の解剖学(2005年 - / ABC)
HEROES(2006年 - / NBC)
ワンス・アポン・ア・タイム(2011年 - / ABC)
テレフィーチャー
勇者は語らず いま、日米自動車戦争は(1983年 / NHK)
アニメ
機動戦士ガンダム(1979年 / 日本サンライズ)
太陽の牙ダグラム(1981年 / 日本サンライズ)
セラフィムコール(1999年 / サンライズ)
.hack//SIGN(2002年 - / ビィートレイン)
アニマトリックス(2003年)
RED GARDEN(2006年 / GONZO)
フィニアスとファーブ(2007年 / ディズニー・チャンネル)
バッカーノ!(2007年 / ブレインズ・ベース)
ef - a tale of memories.(2007年 / シャフト)
ef - a tale of melodies.(2008年 / シャフト)
WHITE ALBUM(2009年 / セブン・アークス)
空中ブランコ(2009年 / 東映アニメーション)
デュラララ!!(2010年 / ブレインズ・ベース)
屍鬼(2010年 / 童夢)
ゲーム
貝獣物語(1988年 / ナムコ)
スウィートホーム(1989年 / カプコン)
ドラゴンクエストIV 導かれし者たち(1990年 / エニックス)
ファイナルファンタジーVI(1994年 / スクウェア)
ライブ・ア・ライブ(1994 / スクウェア)
ミスティックアークシリーズ(1995年 - / エニックス)
EVE burst error(1995年 / シーズウェア)
スターオーシャンシリーズ(1996年 - / スクウェア・エニックス、トライエース)
サガ フロンティアシリーズ(1997年 - / スクウェア・エニックス)
街 〜運命の交差点〜(1998年 / チュンソフト)
ソニックアドベンチャーシリーズ(1998年 - / セガ)
サモンナイトシリーズ(2000年 - / バンダイナムコゲームス)
零シリーズ(2001年 - / コーエーテクモゲームス)
幻想水滸伝III(2003年 / コナミ)
コール オブ デューティシリーズ(2003年 - / アクティビジョン、スパイク、スクウェア・エニックス)
SIRENシリーズ(2003年 - / ソニー・コンピュータエンタテインメント)
キングダム ハーツ チェイン オブ メモリーズ 以降の一部のキングダム ハーツ シリーズ(2004年 - / スクウェア・エニックス)
九怨(2004年 / フロム・ソフトウェア)
Soul Link(2004年 / Navel)
SWAN SONG(2005年 / Le.Chocolat)
絶体絶命都市2(2006年 / アイレムソフトウェアエンジニアリング)
Strawberry Panic!GIRLS' SCHOOL IN FULLBLOOM(2006年 / メディアワークス)
ef - a fairy tale of the two.(2006年 - / minori)
カタハネ(2007年 / Tarte)
428 〜封鎖された渋谷で〜(2008年 / チュンソフト)
恐怖体感 呪怨(2009年 / フィールプラス、AQインタラクティブ)
CALLING 〜黒き着信〜(2009年 / ハドソン)
HEAVY RAIN 心の軋むとき(2010年 / クアンティック・ドリーム)
イケニエノヨル(2011年 / マーベラスエンターテイメント)
グランド・セフト・オートV(2013年 / ロックスター・ゲームズ)
イグジストアーカイヴ -The Other Side of the Sky-(2015年 / スパイク・チュンソフト、トライエース)
アライアンス・アライブ(2017年 / フリュー)
漫画
アドルフに告ぐ(1983年 / 手塚治虫・文藝春秋)
櫻の園(1985年 / 吉田秋生・白泉社)
アンネ・フリークス(2000年 / 小手川ゆあ・角川書店)
ライン(2003年 / 小手川ゆあ・角川書店)
日常(2006年 / あらゐけいいち・角川書店)
屍鬼(2008年 / 原作小野不由美、作画藤崎竜・集英社)
君のナイフ(2009年 / 小手川ゆあ・集英社)
小説
ゴリオ爺さん(1835年 / オノレ・ド・バルザック)
カラマーゾフの兄弟(1880年 / フョードル・ドストエフスキー)
幼年期の終り(1953年 / アーサー・C・クラーク・ハヤカワ文庫)
鏡子の家(1959年 / 三島由紀夫)
銀河英雄伝説(1982年 - / 田中芳樹)
ハイペリオン(1989年 / ダン・シモンズ・ハヤカワ文庫)
時の森殺人事件(1992年 / 吉村達也)
ブギーポップは笑わない(1998年 - / 上遠野浩平)
屍鬼(1998年 / 小野不由美)
異形コレクション「グランドホテル」(1999年 / 井上雅彦編・廣済堂文庫)
私が彼を殺した(1999年 / 東野圭吾)
バトル・ロワイアル(1999年 / 高見広春)
レディ・スクウォッター(2000年 - / 都築由浩・電撃文庫)
ウィザーズ・ブレイン(2001年 / 三枝零一・電撃文庫)- ドミノ(2001年 / 恩田陸)
ラッシュライフ(2002年 / 伊坂幸太郎・新潮社)
プラトニックチェーン(2003年 / 渡辺浩弐・エンターブレイン)- 異形コレクション「夏のグランドホテル」(2003年 / 井上雅彦編・光文社文庫)
バッカーノ!(2003年 / 成田良悟・電撃文庫)
シンセミア(2003年 / 阿部和重・朝日新聞社)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(2009年 / 入間人間・電撃文庫)
デュラララ!!(2004年 - / 成田良悟・電撃文庫)
WORLD WAR Z(2006年 / マックス・ブルックス)
15×24(2009年 - / 新城カズマ・集英社スーパー ダッシュ文庫)
阪急電車 (2010年 - / 有川 浩・幻冬舎文庫 )
関連項目
- オムニバス
脚注
- ^ ab鹿島茂「『幸福号出帆』と『鏡子の家』の関係」(三島由紀夫『幸福号出帆』)(ちくま文庫、1996年)
^ 群集劇コトバンク
- ^ ab田中西二郎「解説」(文庫版『鏡子の家』)(新潮文庫、1964年。改版1999年)
- ^ ab栗原裕一郎・豊崎由美『石原慎太郎を読んでみた』(原書房、2013年)