口頭弁論
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
口頭弁論(こうとうべんろん)は、日本における民事訴訟手続において、双方の当事者または訴訟代理人が公開法廷における裁判官の面前で、争いのある訴訟物に対して意見や主張を述べ合って攻撃防御の弁論活動をする訴訟行為をいう。
目次
1 概要
2 口頭弁論の基本原則
2.1 公開主義
2.2 双方審尋主義
2.3 直接主義
2.4 口頭主義
2.5 継続審理主義
3 狭義の口頭弁論と広義の口頭弁論
4 関連項目
5 脚注
概要
日本国憲法第82条により、判決で終局する争訟は口頭弁論を経なければならない(必要的口頭弁論)。ただし、決定で終結する事件は口頭弁論を開催するかどうかは裁判所の裁量(任意的口頭弁論)に任せられ、必ずしも口頭弁論は開かれない。
民事保全法などの事件においては双方に対等の機会を与える見地から、裁判官の面前での審尋がなされることは稀ではない。
口頭弁論においては準備書面を提出することが要求される。
口頭弁論期日を設けても、実際にはその日には他に何もせず裁判官による判決言渡しのみを行うという事もなされる事がある(民事訴訟法251条1項。現場の裁判官により多用される。)。
口頭弁論期日だけの続行では審理が遅延するため、現在の民事訴訟法では、準備的口頭弁論、弁論準備手続、書面による準備手続を創設し、争点整理に活用することにした。弁論準備手続は旧民事訴訟法で明文条文がなく実施されていた弁論兼和解を正式の準備手続として明確にした手続である。
最高裁判所では民事訴訟法第319条や刑事訴訟法第408条により、上告を棄却する際には、弁論を経ないで棄却することができる。一方で、原審破棄をする場合は口頭弁論を開かなければならない。口頭弁論を経た上で上告を棄却することも可能だが、現在の最高裁判所は大量の上告案件を抱えており、小法廷では上告棄却をする際には口頭弁論を経ない手法を用いて、手間を減らす方針を取っている。
そのため、最高裁判所小法廷で口頭弁論を開くか開かないかで、判決の結果が事前に判明することになる(大法廷に回付される裁判は別である)。ただし例外として、原審の死刑判決の場合は上告棄却にせよ原審破棄にせよ、いかなる場合でも口頭弁論を行う慣例となっている。これは慎重に審理して極刑を言い渡したとするためである。最高裁における口頭弁論なしでの死刑判決維持は1949年に発生した三鷹事件の裁判で竹内景助の上告を1960年に棄却したのを最後に行われておらず、三鷹事件控訴審において書面審理だけで一審の無期懲役判決を破棄し死刑判決を言い渡したことが問題視されたことがきっかけで、死刑判決事件に対する上告審では毎度口頭弁論が開かれることとなった。オウム真理教事件の麻原彰晃の最高裁審理は一審の死刑判決に対する控訴審において控訴趣意書を期限以内に提出しなかったことによる控訴打ち切りの是非に関する特別抗告による最高裁審理のみであり、通常の最高裁への上告とは事情が異なる。例外として1992年10月20日に発生した国立市主婦強盗殺人事件(第一審は死刑判決も控訴審で破棄され無期懲役に減軽)では無期懲役判決の上告に対し1999年に最高裁小法廷で口頭弁論が開かれるも、上告を棄却して無期懲役を確定した[1]事例もある。
口頭弁論の基本原則
公開主義
- 定義
- 国民の傍聴し得る状態で審理・判決を行うという原則
- 趣旨
- 裁判の公正確保、国民の信頼確保
双方審尋主義
- 定義
- 当事者の双方が、それぞれ主張を述べる機会を平等に保障されなければならないという建前
- 趣旨
- 平等権(憲法14条)、裁判を受ける権利(憲法32条)の実質的保障
直接主義
- 定義
- 弁論・証拠調べが、判決を行う裁判官によって行われねばならないという建前
- 趣旨
- 弁論・証拠調べを直接見聞した裁判官の判決による、実体的真実発見
口頭主義
- 定義
- 弁論・証拠調べを口頭で行うべきとする建前
- 趣旨
- 鮮烈な印象・適宜の釈明の機会の付与による、実体的真実発見。裁判官の心証形成
継続審理主義
- 定義
- ある事件の弁論・証拠調べを継続的に行った後、ほかの事件の審理に移るという審理方式
- 趣旨
- 効率的かつ真実に合致した判決の実現
狭義の口頭弁論と広義の口頭弁論
口頭弁論は、狭義の意味では、訴訟当事者が口頭で本案についての申立てをし、攻撃防御方法を陳述する事である(擬制陳述含む)。これは手続きであって、ここで訴状や答弁書、それまで行ってきた準備書面に記載されていた内容等が述べられたという事になる(裁判官がその確認を行うが、記載した内容を述べるのであればその旨を伝える事によって口頭弁論での主張を行った事になる。)。この口頭弁論の手続きは、通常数回をかけるが、裁判所が口頭弁論を終結させてよいと判断した時点で終わり、ここで裁判長が「これで本事件の口頭弁論を終結します。」等宣言し、後は判決を出すための評議(裁判所法75条〜78条)及び判決原本作成(判決原本の要項は民訴253条に記載)の期間に入る(ここで、必要がある場合は、民訴153条により、裁判所は終結した口頭弁論の再開を命ずることができる。)。
口頭弁論は、広義の意味では、証拠調べを含め、更に訴訟指揮や裁判言渡しをも含める場合もある(これを根拠として、明示的な口頭弁論終結の宣言や連絡を欠いたまま(処理としては裁判所内では口頭弁論の終結が行われて)、「口頭弁論(判決言渡し)」(※期日を口頭弁論期日として開催しつつ、そこで判決言渡しを行う)という様な期日の開催が行われる事がある。これは、上記の裁判長による口頭弁論終結の宣言の行為の存在と矛盾するが、時おり、当該「口頭弁論期日」が「判決言渡し」である事を明示せずにその様な期日が行われる事もある。)。
(「口頭弁論」という言葉は、その使用された文脈により、狭義の口頭弁論と広義の口頭弁論、そのどちらを指しているのかを判別する事になるが、訴訟当事者は、特に判決言渡しが関係する場合には、どの様な意味で「口頭弁論」「口頭弁論期日」という言葉が用いられているのかに注意する必要がある。)
関連項目
- 弁論主義
- 準備書面
- 弁論準備手続
- 書面による準備手続
- 審尋
- 公判
脚注
^ 1998年1月まで求刑死刑に対して二審で無期懲役判決が出た5件について検察側が上告した(連続上告)の一つ。本件含め4件は上告棄却されるも、福山市女性強盗殺人事件(強盗殺人前科による無期懲役の仮釈放中の犯行)についてのみ上告を認めて破棄差し戻しし、その後死刑判決が確定した。